先日、日本での就労を目指すベトナム人を対象にセミナーを実施いたしました。
テーマは「日本での就職と会話力」
現地時間20:00から開始し、1時間ほどで終了の予定でしたが終わったのはなんと21:45(日本時間で23:45)という長丁場でした。これまで、ベトナム人を対象にしたセミナーはだいたい途中離脱する方が多かったのですが、今回の参加者はなんと全員が最後まで参加していただけました。
(こちらの写真は参加者全員ではないのですが、スライドで説明し始めると全体の写真が撮れなくなるので、開始前にスクショしたものになります。変な写真ですみません。)
技能実習制度、特定技能、技術人文知識国際業務(以下技人国)といった日本で働く代表的な就労制度・資格について必要な要件を正しく理解してもらうことから、日本の企業が外国人材に何を求めているのか、またそのために今何をすべきなのかを中心に講和させていただきました。
一番に感じたことは、日本で働くこと・留学することを目標にしている人たちでさえ、技能実習制度、特定技能、技人国のそれぞれの違いを正しく理解していないということ。正しい情報を入手する手段がありそうでないのかもしれません。そのせいか必死にメモをとっている姿が印象的でした。
次に案の定想定してたのですが、やはりみなさん「読み書き」の勉強ばかりしていて、会話に関しては苦手意識の塊でした。このセミナーは、テーマのとおり会話力の重要性を問いた内容のため、セミナーの最後には当トレーニングを何人かにトライしていただきました(もちろん一番低いレベルのセンテンスで)。
まず、とにかくみなさんシャイで恥ずかしがります。このあたりは、日本人もベトナム人も一緒ですよね。もちろん国民性もありますが、残念ながら、読み書きの勉強・試験に合格するための勉強しかしてこなかった人に共通することです。
読み書きの勉強を中心にしてきた方は、会話も間違ってはいけないという考え方を無意識に植え付けられてしまいます。これは会話練習において「人前でどんどん間違えることから始まる」というマインドが培える教育が提供されてこなかったために、読み書きでの間違い以上に会話での間違いを恥ずかしく感じる感覚に陥っているかと推測されます。実はこれは私たちがこれまで受けてきた英語教育と全く同じなのです。
ここで、改めて「読み書き」と「話す聞く」の違いです。
読み書き・・・一方通行のコミュニケーションのため、時間をいくらかけてもいいが、正確性が求められる能力。
話す聞く・・・双方向のコミュニケーションのため、多少間違ってもスピード・反射能力が求められる。なおかつその場ですぐに言い直すことができる。
といったような特性・違いがあります。「読み書き」と「話す聞く」の能力は全く異なります。そもそも能力が全く異なるので、それぞれ鍛え方も異なります。どれだけ知識(文法や単語)を詰め込んでも話せない理由はここにあります。
この違いを理解して会話トレーニングに励みましょうと言いたいところですが、この違いを明確に理解しなければいけないのは、実は聞き手側だったりします。
「聞き手」の圧倒的な能力不足
この違いがなかなか理解できない理由として、私たち日本人の例で言えば、長年英語を学んできたにも関わらず、「話す聞く」の教育を受けてこなかった(厳密にいえば教えられる人がいなかった、またそれを後押しする有力者が圧倒的に少なかったのかもしれない)ことが大きな要因であると考えています。そのため、なんとなく違いはわかりつつも、自分の中で実績がないので日本語能力検定試験の合格を後押しする考え方しか思いつかないのかもしれません。
雇用している外国人スタッフには、日本語での会話力をアップして欲しいと思いながらも、実際には英語が話せない日本人のような人を量産しているだけに過ぎないと日々感じます。先に言ったように「聞き手」が話す聞く能力をアップさせるために何が必要なのか理解していないと間違ったことを長年し続けるだけになります。その結果、「提供した教材が全然持続しない」「全く会話力が上がらない」といったことに陥ります。
同時に、よくありがちなのが、聞き手が読み書きと同じように「会話」にまで完璧さを求めてしまうことです。これは、話し手が今後気さくに話しにくい環境になってしまうのです。このように実は会話力が向上する大きな要素として、本人の日々の努力はもちろん必要なのですが、聞き手の能力が大きく影響してくるのです。
<よくある勘違い>
・勉強教材を提供していれば、会話ができるようになると思っている
・定期的に日本語教室に通えば、会話ができるようになると思っている
みなさん、いかがでしょうか?実はこれらは、英会話教室に行って、2、3か月で挫折する日本人の行動パターンと同じなのです。
読み書きの勉強ばかりやってきて(また試験に受かるための勉強で)会話ができるようになった人はみなさんのまわりにいますか?
いないですよね。
定期的に英会話教室に行って、英語が話せるようになった人はみなさんのまわりにいますか?
いないですよね。
こんなことをやっていても「聞き取れない」「話せない」つまり会話ができないということを日本人が実際に経験して一番知っているのに、外国人スタッフに教育の場を提供する側になったとたん、これらの間違った考え方がいつのまにか脳みそから消えてしまっているのです。
会社として外国人スタッフに必要な能力は何なのでしょうか?試験合格ではなく、しっかりコミュニケーションが取れる能力ではないでしょうか?ましてや日本語能力検定試験に合格すれば給与をアップといった待遇を打ち出している会社もありますが、試験に受かるための教育費用まで会社が出して、合格すればその資格を持って他社へ転職するといったことが起こっては目も当てられません。すぐに検定などの明確にわかりやすいスコアに頼ってしまい、本来の目的を見失ってしまっている日本企業によくある典型的なパターンかもしれません。
そもそも日本語能力試験◯級といったものは、日本語が話せる能力を示すものではなく、地頭がいいとか、勉強するための工夫する能力があるといった違う尺度を持った方がいいと考えます。基本的に読み書き中心の試験(日本人が大好きですよね)のため、漢字圏の人はそれ以外の国籍に比べて合格しやすくなります。
原因と今後の課題
これは、聞き手である雇用する日本人側が、海外での就労経験がなかったり、日本語以外の言語を習得した経験がないために、もしかしたら気づきにくい領域なのかもしれません。
このように聞き手側である日本人の能力が低ければ、外国人スタッフの能力を伸ばすことすらできない状況となり得ます。伸ばせないだけでなく、敬意が払われなくなり、会社を去るきっかけになっているかもしれません。
外国人スタッフの早期離職・失踪の原因は日本人とのコミュニケーションが原因となっています。高度人材においては、約30%が会社への不満でなく、上司への不満、すなわち人への不満が原因で早期離職に繋がっています。
経験がないからこそ気づきにくい。無知だから間違っているかどうかの判断ができない。これが、外国人との共生、雇用上の関係、グローバルビジネスにおいて日本人にとって致命的な弱点です。しかし、この弱点を知る(理解する)ことで、一気に強みに生かすことができるのです。
今一度、雇用する(している)外国人スタッフに求めている能力は何なのかを考えてみてはいかがでしょうか?
そして弱点を知った上で、自社でできること自分でできることは何なのか問いただしてみるきっかけになれば幸いです。
こちらは、日本語教育を導入しようと検討する際、考え方や目的に対する教育基準の選定方法などをまとめたe-bookになります。参考にしてください。
日本語の会話教育から始まる外国人スタッフのマネジメント
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